2019年11月09日

【恋愛小説】あなたとホワイトウェディングを夢みて 127

「こちらの要望はこの書類に書き記しているが、一度綿密な打ち合わせをしたい」

 郁未がデスク上からクリップで留めた資料を取ると、それを留美の方へと差し出した。
 郁未の甘い声に誘われてその姿を目で追っていた留美は、恍惚な顔で郁未の手を見つめている。

「佐伯?」

 何度見ても大きな手。男らしいこの手に抱き寄せられ、何度唇を重ねられた事か。最近、不可解な行動に出る郁未に何度心惑わされその気にさせられかけた事か。
 留美はつい郁未との信じられない時間を思い浮かべていた。
 資料を持つ手を呆けて見ている留美に郁未が困惑する。
 何度も名前を呼んで声をかけるも、自分の世界に入り込んだのか留美は無反応のまま。ただ、頬を赤らめて瞳がほんのり潤んでいる姿に郁未もまた引き込まれてしまった。
 しばし沈黙が続く専務室。
 森閑とする部屋は微妙な空気が漂う。
 ハッと気付いた留美が資料を受け取り顔を上げると、郁未もまた現実の世界へと引き戻される。

「すいません、こちらですね」
「ああ、これを頼む」

 これでは完全に留美のペースに嵌まってしまう。このままでは不味いと危機を感じた郁未が留美獲得作戦を決行しなければと思い立つ。
 そして、咳払いするといつもの傲慢な郁未に戻る。

「ディナーを台無しにされた一件だが、その責任を取って貰うつもりだ」

 やはりディナーの話が持ち上がったと覚悟していた留美だが、ディナーは得意先と聞いていた相手が実は郁未の親友だったと言う落ちが付いている。

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